「おぼっこ」2号(昭和39年3月21日発行)復刻版

『巻頭言』

(これは極最近のお写真です)
会長 照井 邦彦
                      
 暖冬とは言ってもやはり寒い日が続いている。コタツに暖を取りながら、うつらつつらと過ぎ去った日々の事に思いをはせるのは冬ならではの情緒です。
 そんな或る日、粉雪のサラサラと積もる音が聞こえそうな静かな夜でした。私は夢の世界へ誘われてーーー80日間世界一周のホステリングに数人の友と出発しました。米国ではケネディ夫人と逢い、ロンドンではシャーロックホームズと語り、パリで美味しいコーヒーを飲み、ドイツのアルテナ城ホステルに泊まり、ソ連で月ロケットに便乗して月へーーーそんな奇想天外な夢でした。こんな旅もしてみたいものです。第一にロハですし、時間も数秒しか入りませんものね。
 グループも三才の春を迎えようとしています。今では会員も七十余名を数えるに至り、発展の一途をたどっています。仲間の増えるのは、金と同様誠に嬉しいものです。
 今年も、陸中海岸、八幡平、十和田とホステリングを重ねて楽しい中に親睦を計りユースホステル精神の一端なりとも掴み得た様に思う。内にあっては集会で語らい難しい議論に頭を悩ましたものです。
 活動の停滞しがちな冬にあっては、会誌「おぼっこ」第二号が編集されている。やがて会員の楽しい思い出の記を読む日が来るでしょう。「おぼっこ」も一つ年が増えたーーー
 諸君!ユースホステル精神の若々しい心を常に失わず、ホステリングに集会に楽しくしかも意義ある活動を続けよう。YH運動は世界平和にも続くというが、せめて僕らの健全な学生生活を送るべくグループを育てて行こうではないか。
(さすが照井さん、今でも通じるこのお言葉の数々・・・!)

『会長さん!コンニチハ?インタビュー』

1代目  Your Name?  小林尚道デス。
 生まれは北海道余市の産。応用化学科に入学し、四年になってグループ設立。四角い顔に優しい目、笑えばガッパリ大きな口ーーー茶目っ気タップリ議論はニガテーーー同僚けしたてグループ設立、笑って遊んでハイ!サヨナラ。グループのお父さん。後人曰く。「親はなくとも子は育つ」
2代目  Your Name?  橘絃武デス。
 コイツが例のハッスル男よ。サイクリング、8ミリお手のもの。あげくのはては、北上ゴムボート下りの大曲芸。サモンでも飲んでるの?生まれは御当地盛岡の産。この若さ、情熱こそ我がグループ発展の機動力でした。赤いシャツ着て8ミリ下げてチョコマカチョコマカ忙しい人で、我が部きっての名カメラマン。鉱山科卒業予定ーーー注意!落盤多し。
3代目  あの!貴方は?  斎藤健デス。
 山形生まれの金属科育ちーーー軟金硬金両手持ちーーー折も折ったりスキーを二本。ホンマニお金のある方や。誠実で静かで遊び事無し。(ホント?ジャンを少し、液体少し、煙を時折二、三本)内に秘めたる情熱の男。イイゾイイゾとおだてられ今年で停年ご隠居暮らし。
4代目  お名前は?  名刺があります。どうぞ!
 
「電気科  照井邦彦」 ナルホド!
 伝記ーーー盛岡に生まれたまじめなお人。趣味は広く書くに及ばず、背高は標準以下だけど笑いと人情は八十倍。学業忘れるハリキリ男。来年確かに頼ンマッセ!



『アンケートから』


もしも貴方が1,080円拾ったらどうしますか?

・誰も見ていなかったら千円飲む。50円は会費に30円は生協ラーメン(中島)

・交番には絶対もっていかないで懐にいれてしまう。そして1ヶ500円のケーキ、または洋菓子を買ってきて、コタツにあたりながら、ラジオを聞いてお茶を飲んで食べてしまう。残りの580円で家に帰る。(斎藤)

火事になって最初に持ち出すのは何ですか?

・イスーー火事をすわって見られるから(小田島)

・彼女(いればね)(中島)



『仲間たち』 意地悪


(これは極最近のお写真です)
(T2) 中島常雄
 冬のある日彼は札幌発17時25分発、函館行急行ライラックに乗った。この列車は座席指定なので混んでいるはずはないが、全くガラ空きだった。彼が指定された所には彼のほかに二人座っていた。一人は50才くらいの男で、もう一人は20才くらいであろうか若い娘さん。彼は窓がわにすわり、彼女は向かい合ってすわることになった。彼女は東京へ行く大学生らしく見うけられた。そして美しかった。とは言ってもその人の顔を真正面からジロりと見た訳ではない。彼は純情で気の小さい男なのだ。窓の外を見れば夜のこととて真暗である。だから前にいるその人の顔がうつるのである。
 いつものことであるが前に女性がいるとどこに目やれば良いのか惑う。彼はタバコを出して口にくわえた。そして煙を出す度に窓ガラスを媒介としてその人の顔を見た。その人は始め週刊誌を読んでいたがあまり面白くないようですぐにたたんでしまった。どうも様子からすると何か話しかけてもらいたそうである。それを見ると、彼は何か笑い出したいような気持になった。そしてこう心に決めた。向こうが話しかけてくるまで絶対話しかけまいと。そう思うと彼は退屈しなかった。目のやりばには苦労した。目が合うとどうも話しかけなくちゃ悪いような気がしたからだ。オーバーをかけて寝たふりをしたり、タバコをふかしたりしてごまかした。まるでゲームしている様に彼は楽しかった。そして彼女がつまらなそうな顔をしていたのでなおさらだった。
 汽車は函館に近づいた。彼は連絡船に乗ったら思いっきり話をしようと思った。汽車が函館の構内に入った。人々は荷物を持って戸口の方へ列び始めた。いよいよゲームも終わりに近づいたと彼は思った。
 「すみませんけれどそちらの側にある荷物おろして下さいませんか」
 ついに勝った、と心の中で彼はバンザイを(それほどでもないが)叫んだ。連絡船にのるためにプラットホームにたくさん列んでいる。船の中では話をするぞと思いながら、彼女に続いてプラットホームにおりた。
 すると何ということだろう。彼女は一等の方に並ぶではないか。もちろん彼は二等である。彼はボンヤリと駅の外をながめた。さっきまで降っていなかったのにいつの間にか雪がふり出していた。

(実に中島さんらしいと、思いませんか?)



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