断層 五代目会長 富田忠征
芋虫はゆっくり動く。芋虫は静かに動く。芋虫はヌヌヌ、ヌヌヌと動く。満月は昔のことだ。芋虫は休まずに動く。夕やけは秋の中にある。芋虫は空を仰いで動く。木の葉が淋しく散っていく。芋虫はひとつの小技を動く。遠くの川に血が流れ、空に五つの陽が昇る目のない魚が住もうとも、月にうさぎがいなくとも芋虫は芋虫でしかない。そして芋虫だけが芋虫である。
ひとつの山を越えたとき、向うに山が見えてきた。ふたつの山を越えたとき、谷間に川が光ってる。「オイ、オイ、これはお前の川かい?」木の葉がたまって浮んでる。悲しくなってきいてみた。木の葉隠れの陽が映る。「オイ、オイ、そこの旅の方、傍に泉が涌いてるよ。」立木は杉の大木だ。短い針の指すところ、清水がふっと湧いていて、緑がリンと光ってる。泉はひやりといい感じ。のどがゴクンとなったとき頭は水の中にある。 人間の最も大切な、少くとも導入の期に大学入試と云う実につまらぬ風が吹く。風に舞い上った奴凧の知っている事は、地球が丸いと云う全くつまらぬ事だ。恋人の心が、「√18×007+2」だといって喜んでいる。大学の鋏はプツ、プツ糸を切るだけだ。糸の切られた奴凧は、今にも破れそうな薄っぺらな服をきて、風邪をひいて鼻水をながして、つまらぬ風にぶっ飛ばされて、わめきながら、泣きながら消えて行く。 つまらぬ風に飛ばされてしまっては、つまる命もつまらなくなる。つまる命がかわいそうである。つまる命を守るには人間が必要だ。人口密度の高い日本にいて人間が必要だとは何事だ。別に何事でもない、囲りを見ればすぐわかる。友の心は遠すぎる。遠すぎるなら近づけなければならぬ。近よって行かねばならぬ。 皆んな谷間に下りてこい。こっちの水は甘いぞ。長い、長い首をのばして呼んでみた。のどの渇いた小羊が、どんどこ山を下りて来て、ざんぶり川に飛びこんだ。泳ぎを知らぬ羊なら、水を飲んだらさあ上れ。おぼれて死んではつまらない。水から上った小羊はこんどは寒いと泣き出した。それでは火をたけ、火をもやせ。たき木をひろってさあもやせ。あちらの落木はもえにくい。こちらに良い木がありそうだ。鼻の頭に汗が出て、汗をふき見上げたら、空に大きな円い月、再び空は秋の色。 |
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